るろうに剣心-明治剣客浪漫譚- 星霜編 ~特別版~を再度見てみました。前に一度だけ見たことがあったのですが、そのときはあまりに悲しい話だったので、自分の中で、この話は黒歴史と扱っていました。原作でも、自分の中でも、るろ剣は完結していたものですから、「これはるろ剣じゃねぇ!こんなのバットエンドだ!!」と全否定していました。
この作品では、人誅編のラストで、雪代縁との決闘で語った自らの答えのその後を見ることが出来ます。原作やアニメを見ていたときは、四ノ森蒼紫や斉藤一と言ったライバルとのバトルシーンに釘付けばかりで、ストーリーや内容はそれほど重要視していませんでした。飛天御剣流の剣技を駆使し、戦う剣心をただ格好いいと思うだけで、緋村剣心というキャラが自分の中でヒーローとして成立していただけでした。でも、いくら剣心が、幕末にその名を残した伝説の人斬りであろうと、人斬りという罪とそれを償うための答えを探しながら、ただひたすらに明治という時を生き抜いた一人の人間だったんだなと、数年たってこの作品を改めて見て思い知らされました。
飛天御剣流を扱うどころか、刀を持つことさえできなくなった剣心は、自らの力でできることは何かと問い続け、家庭を持ってからしばらくした後に旅に出てしまいます。度々、家に帰ることもあったようですが、旅の中で突きつけられた現実と己の病を疎まれ、嫌われ、絶望に陥る日々の連続で、次第に剣心からは生気が感じられなくなってきてしまいます。長い旅の果てに、大陸のどこかに流れ着いてしまいますが、そんな疲れて憔悴しきってしまった剣心を佐之助が見つけ、なんとか剣心を船で日本へ帰国させようとします。
船が港から出航し、もう二度と会えないであろう剣心に向かって、佐之助が素直に剣心に今までのお礼と、そしてさよならを告げる姿を見て何か熱いものがこみ上げてきました。直接それを伝えられなかった佐之助の不器用さは相変わらずですが、それは、一緒に戦ってきた友として佐之助の剣心への最後のけじめであり、また、新たな決意でもあったのでしょう。
日本に戻り、病魔にその身体を蝕まれ、その命がつきかけてようとしていても、最後まで自分の支えとなってくれた薫の元へ帰ろうとする剣心。同じ病に冒されながらも、自分に幸せを授けてくれた剣心を出迎えようとする薫。お互いに苦しみながらも、愛する人に会いたいという思いが二人の身体をつき動かします。
剣心と薫が再会した桜が舞い落ちる場所。そこは、京都に旅立つ剣心が薫にさよならを告げた場所であり、京都から帰ってきた剣心を薫がおかえりと迎えた場所でもあり、その他にも、いくつもの出会いと別れがあった、家の前にある桜並木の道。そして、最後に剣心と薫が出会うことができた場所でもありました。
剣心や薫が居なくなってから少し時が流れ、EDのラストシーンで、桜が舞い落ちる春に、成長した剣路が、恋人と連れ添って歩くのは、あの桜並木の道。そこで何かを思い至ってふと立ち止まる剣路。恋人に向かって、「俺達、幸せになろうな」と語る剣路をみて、ああ、一つの時代が終わって新しい時代が始まっているんだなと感じました。
息子である剣路には、剣心と薫の二人は決して十分に幸せであったとは思えなかったのかもしれません。しかし、薫に抱かれた剣心の最後の顔には安らぎがあり、また、人斬りとしての罪の証であった頬の十字傷はもうそこにはありませんでした。また、薫はそんな剣心を支える妻として、剣心を愛する一人の女性として最後まで生きていきました。そんな二人が、明治を駆け抜けた果てのお話。時は流れ、剣心と薫の姿はもうそこには無いけれど、想いは二人が共に生きてきた証である剣路に確実に受け継がれていくのであろうと思わせるいい作品でした。
一つの季節(時代)が幕を閉じ、新たな春(時代)がやってきた。春が来るたびに時代は移り変わり、また新たな物語が紡ぎだされていくことでしょう。